「ごはん食べた?」
われわれが工事しているお店の名前は、疑問形なのだ。
正式には疑問符がついているのである。
ベトナムカフェ「アンコムチュア」。
その最終工事がいよいよはじまろうとしていた。
工事前夜。
隊長のわたくし、中谷の父ちゃん、そして久しぶりに登場の大山さんは、なぜかランタンで飲んでいた。
ベトカフェのオーナーとなるモルタンが、「シンチャオ、夜遅くに厨房機器を運び込むので搬入を手伝ってください、シンチャオ」と連絡をしてきたので、わたくしと父ちゃんは大門で待機することに。
秘密基地に前乗りしてわれわれとお酒でも飲もうと思っていた大山さんも、必然的に山から商店街へとポイント変更。
3人で夜の繁華街でぼーっとしていても仕方ないので、「ま、一杯ぐらいいいじゃないの」「そそ、一杯ぐらい」などと言いつつ、3杯も4杯もビールを飲んでいた(笑)。
50代のおっさん3人(中谷、大山、奥田の3人)がすっかり酔っ払った午後10時。
モルタンが厨房機器を満載したハイエースで到着。
「シンチャオ、遅れてゴメン、シンチャオ!」
が、このとき、中谷の父ちゃんと大山さんはすっかり酔っ払っててどこかへ消えてしまっており、お客としてランタンで飲んでいた花屋の中村さんたちが荷物の運搬を手伝ってくれた。
すべての荷物を運び終わった頃、ふたりのおっさんは「シンチャオ〜、シンチャオ〜」と、どこかの物陰から出てくるのである。
トンデモナイ大人たちである。
そのあと、みんなで飲みなおし。
深夜に合流したボーノさんもいっしょに「シメ茶漬け」なんかまで食べにいってしまってヨレヨレになってお開きとなったのであった。
商店街の近隣に駐めた車中や、ホテルや、ランタンの3階で、二日酔いの男たちはそれぞれに目を覚ました。
工事の朝。
桜が満開であった。
この絶好の花見日和に、われわれは工事なのだ。
工事のスタートは午前8時。
隊長のわたくしは誰よりも早く現場に入る。
今回もたくさんのボランティア工作人が参加してくれる。
彼らを待たせては申し訳ないのだ。
いち早く店の鍵を開け、休憩用のイスと机を出しておくのである。
が・・・・。
鍵開かず(笑)。
たくさんの業者が出たり入ったりするので、鍵は暗証番号つきのロックホルダーに入れられ、ガス管にガッツリながれていた。
暗証番号を入れても動かない。
番号を何度も確認するがダメ。
焦る。
いつの間にか三澤さんや中村さんなど、きょうの参加者がぞくぞくとやってくる。
が、開かない。
焦りまくる。
どうやらきのう工事をした人が、ちゃんとロックしていないのに無理やり閉じてしまったらしい。
どうしたものかと思っていたら、なんでもない拍子にカチャリと開いた。
「おおおおおおお〜、開いた〜、よかった〜、ばんざーい!!!」
まだ最終工事をはじめてもいないのにもう完成したような喜びようである。
「じゃあ、きょうの工事の段取りを説明します・・・かね・・・ウプ・・・・」
工事班長の中谷の父ちゃんは完全に二日酔い。
大山さんも飲み過ぎで身体がだるくて立てない。
モルタンにいたってはガス管を見つめつつ、ドンヨリ(笑)。
最後の・・・・
ひょっとしたらサルシカの最後の店作りの工事かも知れないのに、こんなことでよいのであろうか。
「じゃあはじめっか〜」
最終工事のメイン舞台は2階。
ここは飲食スペースではなく、物販コーナーになるのだ。
まず室内に残されていた荷物を2階の廊下にみんなで放り出す。
最初にやるのは壁剥がし。
昔どこの家にもあった金ピカのふりかけみたいなのが入った壁ね。
この壁はどう見てもベトナムではないので、みんなでゴリゴリと剥がす。
ゴリゴリやる奥山さん。
削ったところがやたら白く見えるけど、これは中谷の父ちゃんが前日にテスト塗装をしたところ。
表面をざっと削ってしまえば、その上から塗装しちゃえるのだ。
窓部分につくられていた棚を破壊。
扉を外す。
外した扉は3階へとつながる階段をふさぐために再利用する。
2階の通路からみた様子。
昭和ディープな世界でしょ!
窓を取り外していた王子(名前です)が、ガラスを割る。
「あーあー、あーあー」
みんなで大騒ぎ。
実はガラスは交換するので割ってもかまわないのだ。
「も〜焦ったわ〜」と王子。
押し入れもバキバキ壊されていく。
棚を外し、床も剥がす。
ここは商品の展示スペースになる予定。
剥がし終えた壁にマスキングテープが貼られていく。
ペンキチームの出動だ。
そして現場に、朝から一仕事を終えたフォトグラファー加納さんもやってくる。
「えーっと、ここ(2階)にはテーブルとイスを並べて飲食スペースにするんやんな。
ランタンみたいな個室のイメージでええやろ」
あのぉ・・・加納さん、全然違います。
ここは物販です。
「は? 物販? なに売るんや」
あのぉ・・・加納さん、ベトナム雑貨です。
もう何度も話してみんな知ってるけど。
「そうか、まあええわ、ほんならはじめよか」
えっと・・・もうはじまってるけど・・・・
こんな調子で大門V計画の最終工事は、次のステップへと進むのであった。